スピングラスなどにおける秩序形成ダイナミックスの実験で「カオス/メモリー効果」とよばれる現象が実験的に見出され、現在非常に興味が持たれている。本年度はまず、Migdal-Kadanoff実空間繰り込み群の方法を用いてEdwards-Andersonイジングスピングラス模型におけるカオス・メモリー効果を解析的、および数値的に研究した。その結果これまで明らかにされていなかったこれらの効果のスケーリング特性を初めて微視的な理論に基づいて明らかにすることができた。特に温度カオス効果の弱い摂動領域から強い摂動領域へのクロスオーバが磁化の動的自己相関関数にどのように現れるかがわかった。これは今後、磁化ノイズの実験などで直接検証することができると期待される。また、メモリー効果につついて以前に構築したghost domainの描像を再検討する研究を行った。その結果、メモリー回復時間についてより正確な評価が得られたが、それはこれまでの予測を遥かに超えた長い緩和時間であることが明らかになった。また磁化の動的自己相関関数に、メモリーの回復過程がどのように現れるか、そのスケーリング特性の一般的な形を求めることができた。さらに、スウェーデンのウプサラ大学の実験グループの協力を得て、実験的にこれを検証する研究を進めた。また並行してEdwards-Andersonイジングスピングラス模型のモンテカルロシミュレーションによって、カオス効果とメモリー効果をその結果、理論の予想通り、メモリーの回復時間はこれまで考えられていた程度を超えた異常に長い時間であることが明らかになった。
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