研究実績の概要は以下のとおり。 本研究では、固体状態の粉体の変形において不可逆に現れる応力履歴現象や断層形成の力学を明らかにすることが大きな目標である。 昨年度までに準静的変形に伴って粉体内に複数の平行断層が現れ断層発生に至る過程を、実験及び離散要素法による数値計算で調査したが、そこでは変形のごく初期の段階でミクロなshear bandが多数発生し、互いに竸合しながらマクロな断層へと成長することが明らかになった。 本年度は、この現象を理論的に理解するために、微小変位の範囲でモデルを提案し、解析的な考察を行った。粉体系は粒子に回転の自由度があるため弾性体と異なる自由エネルギーを持ち、微小変位が粒子間の摩擦のために不可逆になるという点が通常の固体と大きく異なる。モデルでは初期状態を規則的な理想配列とし、滑り変位を新たに変数とすることで、この2つの特徴を導入した。 このモデルは上記の現象を数値的に再現するだけでなく、粒子間の接線方向の相互作用が十分小さい場合には断層に沿う粒子の変位と、粒子間の滑り変位の2変数で閉じた簡単な方程式系に縮約することができる。方程式は長波長近似の範囲で誘電破壊のモデルと類似しており、粉体内でLaplace場によるスクリーニングが起きる結果、競合成長が現れることをが理解できる。また、臨界応力状態の安定性を議論し、shearによってミクロな断層が不安定成長することを定性的に示すことができた。 成果発表は論文、国内の大学でのセミナー及び、11月に仙台で行われた国際会議"3rd International Symposium on Slow Dynamics in Complex Systems"で行った。上記会議のproceedingは2004年4月に発行される予定である。
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