ナノ構造化グラファイト中の水素の動的挙動に関する数値シミュレーション

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14740237
• 研究機関: 熊本大学
• 研究代表者: 下條 冬樹 熊本大学, 理学部, 助教授 (60253027)
• キーワード: ナノ構造 / グラファイト / 水素 / 刃状転位 / 第一原理計算 / 分子動力学法 / 理論 / シミュレーション

研究概要

透過型電子顕微鏡を用いたナノ構造観察に基づきナノ構造化グラファイトのモデルを構築し、有限温度での第一原理・古典融合型分子動力学シミュレーションを行い、水素の挙動を調べた。シミュレーションで決定した炭素-水素の動径分布関数における相関ピークは、中性子散乱実験による結果と良く一致しており、モデルの正当性を示している。シミュレーションの結果の可視化や結合次数の解析から、水素原子はグラファイト面の端にある炭素原子と強く結合していることがわかる。水素の自己速度相関関数の計算からは、水素の振動モードに関して、少なくともふたつのモードがあることが明らかになった。ひとつは、結合している炭素原子との間のストレッチング振動であり、約2800cm^<-1>の振動数を持つ。もうひとつは、炭素原子の周りの回転振動であり、約1100cm^<-1>の振動数である。
グラファイト層間の刃状転位にある水素原子のダイナミクスの特異性は、高温ほど顕著になることが明らかになった。グラファイト面が真空に置かれた場合、その「端」にある水素原子の二つの振動モードは大きな温度依存性を示さない。これに対して刃状転位近傍では、水素原子とその上下に配置されたグラファイト面との相互作用が温度上昇にともなって活発になり、結合している炭素原子周りの回転振動の振動数が著しく減少する。この結果は、実際の試料中での水素の挙動、特に、昇温過程での水素放出機構において、グラファイト層間の刃状転位とその周辺に新たな電子状態や応力分布が生じる空間が重要な役割を果たしていることを示唆している。

研究成果

• [文献書誌] 原田晶子: "Dynamic Properties of Disordered Phases of Carbon by an Empirical Potential : Stringent Tests toward Hybrid Approach with Density-Functional Theory"Journal of the Physical Society of Japan. 72(掲載決定). (2003)
• [文献書誌] 下條冬樹: "Atomic and electronic structures in liquid arsenic telluride by ab initio molecular-dynamics simulations"Journal of Physics : Condensed Matter. 14. 8425-8433 (2002)
• [文献書誌] 尾形修司: "Hybrid quantum mechanical/molecular dynamics simulation on parallel computers : density functional theory on real-space multigrids"Computer Physics Communications. 149. 30-38 (2002)
• [文献書誌] 星野公三: "Mode-coupling analyses of atomic dynamics for liquid Ge, Sn and Na"Journal of the Physical Society of Japan. 71. 119-124 (2002)
• [文献書誌] 仙田康弘: "The metal-nonmetal transition of the liquid phosphorus by ab initio molecular-dynamics simulations"Journal of Physics : Condensed Matter. 14. 3715-3723 (2002)
• [文献書誌] J.P.Rino: "Pressure-induced structural transformation in GaAs : A molecular-dynamics study"Physical Review B. 65. 195206-1-195206-5 (2002)