研究概要 |
幾何学的フラストレーションのある系の輸送現象、磁性をテーマとして研究してきたが、その内容は以下の通りである。 1.正四面体構造を持つ磁性体の磁気相図 正四面体構造を持つ磁性体は、古くから、磁気秩序の不在、強い縮退に伴う残留エントロピーの可能性など、さまざまな話題を提供してきた。最近、強い幾何学的フラストレーションを持つ磁性体として、tellurateが合成されその磁気的性質が注目を集めているが、これを4つの磁性原子が正四面体構造を取るユニットを更に3次元的に結合させたような模型を用いて理論的に調べた。摂動展開、スピン波理論を用いた解析により、磁気相図を決定した。また、磁性、非磁性励起のスペクトラムも調べた。これは、中性子の非弾性散乱により観測可能である。 2.強い幾何学的フラストレーションを持つ系での数値計算手法の開発 磁気系の低温での性質を数値的に調べる手法として、従来から、ハミルトニアンの数値対角化、量子モンテカルロ法といった手法が多く用いられてきた。しかし、幾何学的フラストレーションが強い系では、後者の方法は使えず、また、前者も(対角化の計算で扱える行列のサイズの制限から)1次元以外ではあまり有効ではない。このため、現在関心が持たれている2,3次元のフラストレーション系で有効な計算法の開発が必要である。ひとつの試みとして、Kernel多項式法(または、モーメント展開法)をフラストレーションスピン系に適用した。この方法は、大雑把にいって、エネルギー空間でのフーリエ解析とも言えるものであり、従来、半導体の状態密度の計算などに応用されていた。このアプローチでは、全ての物理量の計算はある種の「フーリエ係数」の計算に還元されるが、その計算は対角化よりもはるかに容易である。この手法を、別の計算によってある程度結果の判明しているいくつかの系の帯磁率、比熱の計算に応用し、うまくゆくことを確認した。今後、この手法をより困難な系に応用してゆくのが目標である。
|