研究概要 |
原子内の電子の全てが励起軌道に押し上げられ、内側の殻が空孔になって膨らんだ、中空原子の構造と生成崩壊のダイナミクスの理論的研究を行っている.中空原子状態は準安定で、オージェ過程によって有限の寿命で電子を放出して崩壊する。中空原子の安定性は、電子同士の強い相関によって制御されるので、本質的な理解を得るには従来型の独立粒子モデルでは困難である。そこで本研究では、電子を集団として捉えてその集団運動モードを解析し、中空原子における電子相関の解明、特に、最も基本的な3電子中空原子の安定性及び生成崩壊のメカニズムを解明することを目標に研究を進めている. 本年度は,励起電子のうち1つだけがとくに高く励起した異殻中空原子状態について超球座標を用いて集団運動モードの分析を行った.分子の伸縮振動に相当するモードの存在を見出し,振動の位相に関する量子数を導入することにより,異殻中空原子状態の新しい分類法を提出した.(雑誌論文1) また,中空原子の生成・崩壊のメカニズムの解析のためのR行列伝播法のプログラムの作成と改良を行った.これは,少数多体系の散乱問題に対する高速かつ安定なプログラムであり,適用範囲がたいへん広い.カンザス州立大のC.D.Lin教授のグループと協力し,テストと応用を兼ねて,クーロン3体系の1つであるイオン衝突による電荷以降反応に適用した.高精度の反応断面積を完全に量子力学的に求めることに成功した.(雑誌論文2) さらに,電子相関がより重要とると考えられる4電子原子について,超球座標法の拡張を行い,予備的な結果を得た.(雑誌論文3-5)
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