本研究では、広帯域地震波形の解析を行い、マントル遷移層に存在する速度不連続面(410km、660km不連続面)における、地震波速度、および、密度の変化率を推定することを、試みる。不連続面への地震波入射に伴い発生する、変換波や反射波の波形から、遷移層不連続面における、反射係数や透過係数を見積もる。本年度は、主に、1)解析手法の改善、および、2)広帯域波形データの収集と整理、とに取り組んだ。 解析手法の改善 我々の手法では、理論合成波形と観測波形の相関から、遷移層不連続面の深度や、マントルの非弾性率など、諸パラメータを全域探索的する過程が必要となる。理論波形の計算時間短縮に成功した結果、この手法は、優位となったが、他方、結果モデルの誤差評価が、容易ではない。そこで、統計理論的に、多次元パラメータ空間での全域探索結果から、モデル誤差を求めることを検討し、誤差評価法の改善の考察を行った。 また、沈み込み帯における3次元速度構造が、疑似1次元を仮定している我々の解析に、どのような影響を与えるのか、について考察した。最近の走時トモグラフィー研究の多くにおいて、適切な内挿関数が用いられていないこと、その結果、求められた3次元構造の解釈において注意が必要なことを、見出した。この結果は、平成14年5月の、地球惑星科学関連学会2002年合同大会にて、発表された。 データ収集と整理 これまでの解析では、マグニチュード7クラスの地震を中心に、解析を行ってきた。解析に用いる地震数を増やすことは、精度の向上に貢献するため、これまでに用いなかった、マグニチュード7未満の地震について、データを収集し、予備的な解析を行った。この結果、やや小さな地震から得られる情報量は、不十分であり、大地震のみの使用が妥当であることを、確認した。
|