本研究では、ENSOスケールの変動現象について、太平洋とインド洋のそれぞれに特徴的な変動の中で特に重要な要素である海面温度と大気の変動場の関係に注目し、両大洋間の現象が連動するように見える主要な過程を明らかにすることを目指す。その第2年目として、インド洋における海上風の解析を行い、そのENSOとの関係について調べた。 インド洋の海上風と海面海度にはENSOシグナルが見られるものの、従来得られている観測的な報告ではENSOとの時間的な関係について相反する報告がなされるなど、共通認識が得られている段階にはない。本研究では、その原因として海上風に多重性がある可能性に注目し、その成分の抽出と評価を行った。 北半球夏期の海上風の年々変動成分について主要な時間的空間的な変動パターンをEOF解析で抽出したところ、空間的には非常に似た二つの主要なモードが得られた。時間発展については、第1モードが1990年代に卓越するのに対して、第2モードは1980年代に卓越するというように、対照的であった。これらのモードとENSOの尺度であるNino3海域における海面温度とのラグ相関係数は、第1モードが同年夏期の海面温度との関連を示し、第2モードは次の年の夏期の海面温度との関連を示した。それぞれは、El NinoやLa Ninaの発達期、終息期に相当する。各モードの海上風分布とOutgoing Longwave Radiation(OLR)は非常に整合的な分布をしていることがわかった。これらの結果から、得られた海上風のモードは現実的に物理的に異なったモードであることが確認された。それぞれのモードの振幅とENSOの関係を比較すると、第1モードと第2モードのどちらが卓越するかによって、夏期インド洋海上風が太平洋の海面温度変動と同時に変動するか一年時間差を持つかという関係に支配的な影響があることがわかった。
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