研究概要 |
本年度は,本州南岸の沿岸水位における黒潮変動の役割についての解析を行った。黒潮が非大蛇行流路をとる時は,本州南岸の沿岸水位は黒潮の沿岸側の水位変動と正相関があり,この相関は九州東岸・四国沖・紀伊半島西部にわたる広い海域に見られた。この海域の変動とは別に,紀伊半島東部・東海沖にわたる海域でも沿岸水位と正相関のある変動をしており,紀伊半島南端の串本と,やや東岸に位置する浦神では,非常に近い地点ではあるが異なった水位変動を示していた。なお,黒潮が大蛇行流路をとる際には紀伊半島の東西で相関の違いは無くなり,串本と浦神の水位はほぼ同じであることも確認された。一方,黒潮の沖側の水位は,沿岸水位と負の相関があり,地衡流の関係から黒潮の流速が速くなると沿岸水位が低下することを示していた。これをさらに明確にするため,熱膨張によるステリックハイトの影響を受けにくい黒潮の流軸方向の地衡流速を求めてから沿岸水位との相関を調べると,明確に負の相関があった。なお,黒潮の流軸位置の推定などが精度良く行えるように,日本南岸の流速場の時間変動を詳細に求めるために,海面高度計データと商船ADCPデータや漂流ブイと組み合わせる試みも行った。 加えて,黒潮の沖側に位置していて大洋に開放的に面している沖縄での水位変動についても考察を開始した。この海域には,近年の観測によって,琉球海流系と呼ばれる流れがあることも知られているため,まずこの流れの影響が水位変動にどの程度表れるかを調べた。その結果,海面水位には琉球海流系の変動はあまり表れず,水位変動の信号は中規模渦として西進した後に沖縄南方で黒潮に取り込まれてトカラ海峡の方向に伝播していくことが確認された。これは,琉球海流系が亜表層に強く信号が表れるために,海面水位の変動としては顕著な信号にならなかったためだと考えられる。
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