本年度の研究では、コヒーレント渦の振舞いとその統計的性質のうち、エネルギー・エンストロフィーの時間変化のしかたに関する特徴を明らかにした。具体的に得られた結果は以下のようにまとめられる。 1)準地衡流乱流において、コヒーレント渦は合体・統合を繰り返しながら成長していき、それが統計的にはエネルギーの逆カスケードとして現れる。このコヒーレント渦の領域に含まれるエネルギーとエンストロフィーの表式にはそれぞれ2通りの表現があるが、時間が経って準定常的になってくるとエネルギーの2表現間の差は目立たなくなってくるのに対して、エンストロフィーの差は大きくなってくる。しかし、エンストロフィーが時間の何乗に比例するかという時間変化のしかたについては、どちらの表式を使っても互いに似た値に近付いてきて、むしろ、途中の過渡的な段階で両者の違いが大きくなることを明らかにした。これは、ある程度時間が経過してほぼ規則的な時間変化をする段階においては統計量が安定して、渦の混合効果に対する統計理論による見積もりが有効であることの保証の1つとなる。 2)コヒーレント渦の統合による成長の際に統計的に現れるエネルギーの逆カスケードには、弱いながらも高波数側へのエネルギーの輸送が伴うことがわかり、さらにこの輸送量を統計理論から具体的に計算することに成功した。これは今後、渦の振舞いに関して数値計算による研究を行なう際の重要な足掛かりとなる。
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