研究概要 |
石英脈は近年直下型地震発生の誘発した流体の痕跡として注目されている.この流体の痕跡に関する研究を行う場合,必然的に過去の地震発生域の地質体(領家変成帯)が調査対象となる.調査条件の整っている山口県東部笠戸島において,詳細な地質調査,変成分帯,および石英脈の岩石記載学的解析を行った.笠戸島には領家変成岩が広く分布している.中央部には後期白亜紀広島型花崗岩が貫入しており,その周囲に接触変成帯を形成している.広域領家変成作用と接触変成作用を識別することは可能である.広域変成岩に発達する層面片理上には鉱物線構造が認められる.これは領家塑性変形史における最後のステージ(D3)に対応している.石英脈濃集帯において,石英脈は平滑板状であり壁岩の層面片理を切る.引きずり摺曲も頻繁に観察され,その摺曲軸は壁岩のD3摺曲軸とは斜交するため,D3よりも後に形成されたものである.幅8mm以下の石英脈においては組織平衡に近い粒界が観察されるが,幅10mm以上においては動的再結晶組織が確認された.8mm幅以下の脈に関しては幅と粒径の間に正の相関が認められるが,幅10mm以上の粒径はほぼ一定である.幅の厚い石英脈の石英は弱いながらも格子定向配列を示す.これら観察結果は,より厚い石英脈においてより塑性変形の影響が強いことを示しており,このことは石英脈が脆性-塑性領域の変形場において形成されたことを示唆する.石英濃集帯の成因については現時点では不明であるが,広島型花崗岩の貫入が関係していた可能性が高い.今後は脈を構成する石英の同位体組成や流体包有物組成の測定により,流体の起源に関して考察していく予定である.
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