大気-陸域間の二酸化炭素交換及び生態系内部での炭素動態をシミュレートするモデル(Sim-CYCLE)に安定炭素同位体組成を導入して、グローバルな数値実験を行った。植生による炭素固定に伴う安定炭素同位体比(δ^<13>C)変化は、個葉ガス交換、キャノピー内での再循環、C3/C4植物の地理分布、の3過程で考慮され、炭素貯留の平均滞留時間の長さに応じて大気CO_2のδ^<13>Cと同位体的非平衡が再現された。数値実験は1953年から1999年の気象データに基づいて行われ、地理分布、季節変動と経年変動が解析対象とされた。全陸上生態系の平均的な光合成生産量は年間121PgCとなり、そこでの同位体分別効果は平均して18.2‰と推定された。これらの値は従来の大気データに基づく経験的な推定値と比較して妥当な範囲であった。本研究では、気候条件とC3/C4植物の地理分布を反映して、同位体分別効果には著しい空間変異があることを示した。例えば、熱帯乾燥域では同位体分別効果が小さいC4植物が優占し、逆に亜寒帯域はC3植物のみで被覆されるため、顕著な緯度勾配が発生していた。一方、分別効果の経年変動は空間変異に比較して小さく、むしろ炭素貯留の同位体的非平衡(δ^<13>CのDoll効果)における経年変動の重要性を強調する結果となった。推定結果は、異なる地点における大気CO_2の濃度およびδ^<13>C変動と比較され、両者の季節変動が定性的には一致していることが確認された。感度分析の結果は、個葉ガス交換を決定する気孔コンダクタンスとキャノピー内再循環の程度が推定結果に大きな影響力を持つことを示していた。これらの結果は、日本生態学会などで口頭発表され、学術誌に掲載予定である。ここで得られた結果は、大気データに基づくグローバル炭素収支推定の不確定性の低減に寄与する可能性が高く、引き続き来年度はモデルの改良と結果の解析を行う予定である。
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