本研究の目的は、とりわけ有機地球化学において活発に研究が行われているバイオマーカーとは一線を画すマクロ有機分子(たとえば、リグニン、アルジータンなど)、すなわち堆積物試料中に難分解性画分として多く存在するが比較的研究の進んでいない有機溶媒にとけない化合物について、その分子レベル放射性炭素分析法を開発することである。さらにこの手法を海洋堆積物試料に応用して、従来の起源情報や環境中でのプロセス等に関する新たな知見につながる情報を得ることを目標に、有機地球化学における新たなブレークスルーを展開することである本年度は、(1)AMSによる微量試料測定のさらなる技術的な改良と(2)高速液体クロマトグラフィ・質量分析計イオントラップ型分取システムによる分取条件の検討を行った。(1)の成果として、ルーチン的に10〜20マイクログラム炭素量での極低バックグラウンドでのAMS分析条件を確立した。これによりおよそ0.1マイクログラム現代炭素の汚染以下に抑えた分析が可能になった。次に(2)の成果としては、まず生体分子であるリン脂質(フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミンなど計6種)を用いて、高速液体クロマトグラフィ・質量分析計のESI検出器による感度、カラムによる最適な分離条件、また定量のためのダイナミックレンジの検討を行った。その結果、1回の分析におおいて、50ng相当量のリン脂質の分離と回収が可能になった。来年度はさらに大口径のカラムを用いた、大容量の分取条件の検討を行い、自然レベルマクロ有機化合物のAMS測定を実現する。これにより目的分子の大量濃縮単離を実現し、AMSと組み合わせることにより、AMS-分取HPLC法の確立が可能となる。
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