生体内で働いている蛋白質分子は水溶液中で揺らいでいる。そのため蛋白質全体の電子状態、分子軌道やエネルギーバンドなども時々刻々と変化しているはずである。本研究は水溶媒中のミオグロビン蛋白質を対象とする。揺らいでいる一連の瞬間的な構造について、全電子状態計算プログラムProteinDFを利用することによって、蛋白質の全電子状態を求めることを狙う。構造揺らぎの中で電子状態がどのように変化しているのかを調べ、蛋白質のダイナミックな側面を電子状態の観点から見出すことを目的とする。 全電子状態という大規模計算を行なうため、本年度所属学科に導入されたスーパーテクニカルサーバHITACHI SR8000(1ノード)に、ProteinDFプログラムの移植を行なった。SR8000上への移植のために、ProteinDF共同研究を柏木教授・佐藤博士と結び、ソースコード(ProteinDF Version 0.8b)を入手し使用した。種々の分子、ヘム、そして幾つかのポリペプチドについてProteinDFによるテスト計算を行ない、チューニングの課題は残っているが概ね良好な結果を得た。ペプチド鎖エロンゲーション計算も良好に動作することを確認した。しかしながら一方では、PVMライブラリで並列化しているProteinDFプログラムは1ノードのみから成るサーバ上での並列実行が困難であることが判った。従って蛋白質全体の大規模計算を行なうため、東京大学情報基盤センターのSR8000(144ノード)の利用を考えている。今後、並列実行によるスピード計測、チューニング等を行ない、最終的に目的とする蛋白質一水系での全電子状態計算を行なう。
|