エネルギー分散型の気体X線散乱強度測定装置を用い、様々な解析上の工夫を加えることにより、定量的に電子相関の効果を議論できる精度での、X線散乱強度の測定法を確立した。この手法を用いることで、基本的な二原子分子であるN_2、CO、O_2や、三原子分子であるN_2O、CO_2について、全X線散乱断面積を高精度で測定した。実験と同時に理論計算も行い、Hartree-Hock (HF)レベル、および電子相関を取り入れたCISD、CCSDレベルでの理論的波動関数より、X線散乱強度を計算した。実験値と理論値との比較により、X線散乱強度に現れる電子相関の効果や、ab-initio計算における基底関数の影響、配置間相互作用(CI)法における配置の取り方による効果などを論じ、量子化学計算の精度を検証した。 さらに、実験値をフーリエ変換することで、距離r_<12>離れた電子対の存在確率を表す、電子の二体分布関数P(r_<12>)を実験的に導出した。HF計算における二体分布関数との差をとることで、電子間のクーロン反発により、近距離での電子対の存在確率が減少する効果である、いわゆるクーロン孔の観測に成功した。分子のクーロン孔を実験的に観測したのは、これが初めての例である。電子相関を取り入れた理論計算と比較した結果、実験値と有意の差がみられた。この結果は、大規模な多電子理論計算でも電子相関の取入れが未だ不十分であることを示唆している。 以上の研究により、気体X線散乱実験が電子相関の効果を研究する上で有効な実験手段であることを示した。
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