本研究の目的は、密度汎関数法(DFT)による大規模分子の高精度計算法を開発し、それをもとに、励起状態分子動力学計算法を構築することにある。この目的に従い、本年度の研究を以下のように遂行した。 1.時間依存Kohn-Sham(TDKS)法は、結合性励起エネルギーを驚くほど高精度に再現するが、Rydberg励起エネルギーを過小評価する傾向がある。DFT汎関数が自己相互作用誤差を含んでいることが主要な原因とされてきた。この問題を解決するため、本研究者は本年度、領域的自己相互作用補正法を開発した。この方法は、分子内において電子間相互作用を自己相互作用が支配する領域を見つけ出し、その領域の交換ポテンシャルを原子軌道の自己相互作用ポテンシャルで置換して補正を行なう斬新な方法である。この補正法を自己相互作用誤差が原因とされる化学反応障壁過小評価の問題へ適用し、過小評価を大幅に改善することができた。さらに、この方法をRydberg励起エネルギー過小評価の問題へ適用した。その結果、過小評価は改善したが十分とは言えず、別の問題も関わっていることが示唆された。 2.TDKS法にもとづく電子励起状態の分子動力学(MD)計算プログラムの開発を現在行なっている。最近、TDKS法にもとづくMD計算についての論文が発表された。本研究者らは、現在までに開発してきたTDKS法計算プログラムを利用し、この方法の計算プログラム開発を行なっている。また、大規模分子を取り扱うためには、TDKS法計算自体の高速化も必要である。本研究者らは、電子励起状態の中から特定の状感に関連する分子軌道のみを考慮することによる高速TDKS法の開発にも現在取り組んでいる。
|