初年度の主な研究成果として、分子の振動ダイナミクスのコヒーレント制御において不可欠であるレーザー場設計の一般理論の構築が挙げられる。この際、現在の波動関数がどれだけ望ましい物理的性質を有しているかの尺度となる評価指数を定義し、この量の単調増加を保証する局所制御理論を基に定式化を行った。その結果、制御可能である物理量(制御量)演算子が従うべき運動方程式を導き出すことに成功し、その微分方程式が系のハミルトニアンのみに依存することを明らかにした。 また、フッ化水素分子のモデル系を例にとり、本理論によって得られた制御場の一般表式を以下に挙げる様々な量子制御について適用しその有用性を明らかにした。 【1】固有量子状態の占有量分布制御 評価指数を目標の占有状態分布と実際の占有分布との差が反映される量として定義することによりレーザー場の設計が可能になった。 【2】光学遷移経路の制御 遷移経路の中間状態に偏った重みパラメータを対応させ、少ない重みから大きい重みを持つ状態に系の状態が遷移するように評価指数を定義することにより実現された。 【3】振動波束動学の制御 レーザー場が存在しない条件下で終時刻において目標波束に到達する「時間発展する目標波束」を導入した。この目標波束への射影演算子は制御演算子の満たすべき方程式を満足していることを確認し、評価指数をこの射影演算子との重なりと取ることにより終時刻における波束の成形を可能とするレーザーパルス設計を行った。
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