平成14年度に構築したレーザー場設計の一般理論である局所制御理論を、波束のトラッキング問題に適用した。この際、制御指針となる評価指数を定義するために「レーザー場が存在しない状況下で時間発展し終時刻で望みの量子状態に一致する波束」(時間発展する目標波束)を複数導入し、それらと現在の波束との重なりが単調増加する様にレーザー場の設計を行った。その様に設定することにより、波束の中間・終時刻における波束の動力学を制御することが可能になった。一方、レーザーのパルス形や振動数成分について拘束条件が課すことにより、実験的に実現が容易である制御場の設計を試みた。この際、汎用最適化手法である進化的計算を用いてレーザーのパラメータの最適化行っている。進化的計算で用いられる交差のモデルとしては実数値パラメータの最適化に適しているENDX(extended normal distribution crossing=拡張正規分布交差)を、世代交代のモデルとしてMGG(minimal generation gap)を用いている。また、評価に不可欠である時間依存のシュレディンガー方程式の数値積分の負担を軽減するため、フロケの定理を適用することによりハミルトニアンに含まれる激しい振動成分を取り除いた。この手法を同位体分子の選択励起の問題に適用し、レーザーパルスのパラメータ最適化を行ったところ、2種類の制御スキームが得られた。換算質量比が大きいときは単一πパルスが提示される一方、換算質量比が小さく準位が近接している場合はπ/2パルスのシークエンスが有効であることが示された。最適化されたレーザーパルスの下における系の時間発展を解析したところ、後者の場合におけるパルス間の遅延時間は、同位体分子に生成された波束の相対位相がπずれるまでに必要な時間であることが明らかにされた。
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