ニッケル二核錯体が生理活性発現部位としで存在する尿素分解酵素(ウレアーゼ)の作用機構は推論されているに過ぎず、より単純なモデルを利用したin vitroでの検証が必要である。 そこで、大環状含窒素7員環配位子であるアザトロポコロナンド1のアミノトロポンイミン部をヒスチジン残基2つ分に見立て、環状側鎖の2級アミノ基にリシン及びアスパラギン酸残基をアームとして導入した配位子2を設計した。2のニッケル二核錯体3はウレアーゼ活性部位と類似の環境に置かれることになり、ウレアーゼモデルとして期待される。 昨年度は、アザトロポコロナンド1におけるアミノトロポンイミン部と環状側鎖2級アミン部の反応性を明らかにする目的で、幾つかの反応を行なった。その結果、2級アミン部がより反応活性であることが分かった。この知見をもとに、1に対してリシン残基を有する側鎖部を作用させることで、リシン-ダブルアーム型トロポコロナンド4の合成に成功した。 得られたホスト4に対し、ニッケル(II)イオンを作用させ、二核錯体の形成及びアーム部の配位への関与の有無を調査した。酢酸ニッケルを用いた場合、期待通り二核錯体を生じた。その配位様式は四面体もしくは八面体型配位であることも分かった。一方、ニッケルアセチルアセトナートを用いると、同様に二核錯体を形成したが、その配位様式はアセチルアセトンが配位した平面四配位であった。このように4は、用いるニッケル試薬によって配位様式が変化する、興味深い配位子であることが明らかになった。
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