研究概要 |
本研究では縮環したベンゼンを環状につなげた新しい環状共役系化合物(環状ポリアセン類,環状ポリフェナセン類)の合成研究を行っている。これまでに[60]フラーレン(C60)の南北両極を化学修飾して上下にシクロペンタジエン部位を形成させることにより,赤道部分に新規40π共役系を収率5%で合成することに成功していた。これまではシクロペンタジエン部位の保護・脱保護を経る多段階にわたる合成経路で合成していたが,本年度は合成経路を簡略化することに成功し,環状ポリフェナセン類を1段階で収率50%で合成する手法を確立した。ついで,上下に存在するシクロペンタジエンを酸素酸化によってエポキシドへと酸化し,40π共役系のみを取り出すことに成功した。得られた40π共役系化合物の蛍光測定,電気化学測定,ESR測定,磁化率測定を行い,全く新しい40π系環状ポリフェナセンの性質を明らかにした。また,得られた化合物の量子化学計算を行い,ヒュッケル則にあてはまらない40π共役系を有する本化合物は,芳香族性を有する化合物であることを示した。 また,種々の遷移金属錯体へと誘導することにも成功した。南北両極に鉄,ルテニウム,ロジウム,パラジウムを有する二核金属錯体を合成し,それらの構造を明らかにした。電気化学測定により,これら二つの金属の間で電子的な影響を及ぼしあっていることを明らかにした。 以上のように,理論化学のみで研究されてきた架空の40π共役系環状分子が実際に合成でき,安定に存在しうることを示した。さらに実験的手法に理論的手法の両面から合成した分子の性質を調べた。
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