研究概要 |
(E)-スチルベン(PhCH=CHPh)類および類似した分子骨格を持つ化合物中には,分子の向きが180°回転した関係にある2つの配座が結晶中で乱れて存在する(disorder)ものがあることが知られている。研究代表者はこれまでに,いくつかのスチルベン・アゾベンゼン類について,このdisorderをもたらす2つの配座間には平衡が成り立っており(dynamic disorder),その配座変換が自転車のペダルをこぐような運動(2つのベンゼン環がペダルに相当)によって引き起こされていることを明らかにした。今年度は,スチルベン類と類似した分子骨格を持つベンジリデンアニリン類について検討を行った。目的とするいくつかのベンジリデンアニリン誘導体を合成し,単結晶を作成した。高精度のX線結晶解析を行ったところ,いくつかの誘導体の結晶には少量ながらdisorderが存在し,その存在率が温度によって変化することが分かった。この結果はベンジリデンアニリン類においても結晶中でペダル運動が起こっていることを初めて示したものであり,ペダル運動の一般性を支持している。また,スチルベン類のベンゼン環のo-位にメチル基を導入した化合物についても検討を行い,何れの化合物でもペダル運動が起こっていることを確認することが出来た。この結果は,結晶中でのペダル運動が置換基による立体効果では阻害が困難なこと,つまり,ペダル運動が多くの化合物の結晶で普遍的に起こっていることを示唆している。
|