研究概要 |
1.人工ホスト分子の糖に対する固液抽出能の調査 有機溶媒に不溶な各種糖化合物が、糖を認識する人工ホスト分子の作用によって、結晶状態から有機層中への抽出が可能かどうか調べた。 まず、様々な単糖を重クロロホルム中に懸濁液とし、超音波を一定時間照射後にメンブランフィルターを通して不溶物を除いた後にNMR測定を行い、主要なヘキソースおよびそのメチルグルコシド、リボースについて、それぞれ単独では重クロロホルム中に不溶であることを確かめた。引き続いて、我々の研究グループで開発したトリピリジン部位を有する人工ホスト分子1を系中に共存させ、他は同じ条件で抽出実験を行った。その結果、5種類のメチルグリコシド、リボースに対し、1による抽出作用が観測された。 2.抽出後の液相中における反応の検討 抽出実験で得た糖化合物を含む液相中で、化学反応が制御できる可能性を調べた。具体的には、人工ホスト分子1の有無が反応に与える影響を観察した。 まず、有機溶媒に可溶なオクチルグリコシドを基質とした均一・低温系中における糖水酸基のベンゾイル化反応に1を共存させたときの影響を観察した。原料の消費速度が1の有無により大きく異なっており、興味深いことにオクチル-β-グルコシドのベンゾイル化の場合では1は阻害剤として、オクチル-β-ガラクトシドの場合では逆に促進剤として働くことが分かった。 次に、固-液複相系中におけるメチルグリコシドのベンゾイル化反応についてホスト分子1の関与の可能性を調べた。糖を塩化メチレン中に懸濁液として1とベンゾイル化剤を加え、一定時間超音波照射を施し、1を加えない対照実験とベンゾイル化の様子を比較した。その結果、例えばメチル-β-グルコシドの複相系ベンゾイル化は6-ベンゾイル体と3,6-ジベンゾイル体を主生成物とするが、1を共存させると6-ベンゾイル体の比率を向上させることが分かった。
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