4-メチル-4-シアノ-2-シクロヘキサジエノン、4-メチル-4-メトキシ-2-シクロヘキサジエノン、4-メチル-4-メトキシカルボニル-2-シクロヘキサジエノンを合成し、シクロペンタジエンとのDiels-Alder反応を行った。溶媒として塩化メチレンを用いると、4-メトキシ体、4-メトキシカルボニル体はシクロペンタジエンとほとんど反応しなかった。4-シアノ体はシクロペンタジエンと反応し、環化付加生成物が収率61%で得られた。この反応の面選択性は97:3でメチル基側からシクロペンタジエンが反応した環化付加生成物が主生成物であった。溶媒としてトリフルオロエタノールを用いると、4-シアノ体、4-メトキシ体、4-メトキシカルボニル体、すべて反応が進行した。すべての反応において主生成物は4-メチル基側からシクロペンタジエンが反応したもので、その面選択性は91:9〜97:3と高いものであった。これらの基質のDiels-Alder反応について非経験的分子軌道計算を行ったところ、反応で得られる主生成物は速度論的および熱力学的に安定な生成物であることがわかった。これらの基質のLUMOの軌道係数を計算したところ、4-メチル基側がもう一方の置換基に比べて小さいことがわかった。これらの基質のDiels-Alder反応における高い面選択性は4位にスピロ環を有するシクロヘキサジエノンの場合と同様に、Cieplakモデルで説明できると考えられる。 これまでに見出したスピロジエノンの面選択的Diels-Alder反応をScyphostatinの全合成に応用する検討を行った。L-チロシンから得られるスピロジエノンとシクロペンタジエンとのDiels-Alder反応を行った。このDiels-Alder反応も高い面選択性で反応が進行した。得られた環化付加生成物のエポキシ化反応により酸素官能基を導入し、そのエポキシドの開裂、逆Diels-Alder反応、カルボニル基の還元、エポキシ化反応によりScyphostatinの親水性部分を合成した。この親水性部分と以前に合成した疎水性部分とを結合した。現在、全合成の完了を検討中である。
|