FDCDは蛍光を観測媒体としてCD曲線を得るので、化合物の立体情報を追跡する方法の一つとして、非常に好感度で選択的だと言われている。しかし、応用がほとんど報告されてないばかりか、現行のFDCD測定装置はまだ不完全であり、得られる曲線は必ずしも信用できない。そこで本研究では、楕円鏡構造ならば原理的に異方性による問題を回避しつつ、その集光効率が高いために感度が向上すると言う予測に基づき、日本分光と共同で、通常のCD測定装置の試料室にそのまま装着できる楕円鏡型FDCD付属装置を試作した。実際に蛍光異方性を持つ試料で性能試験を行った結果、異方性によるにせ信号は大幅に減少し、感度は従来モデルと比較して20倍程度向上した。さらに、わずかに残る異方性の影響は、試料セル周辺にマスクをかけて光量を微調整することで最小化した後、偏光曲線からFDCDとのずれを予測して差し引くことで、完全に除去できた。また、これら一連の操作がすべて同じ装置上で行えるよう、操作用ソフトウェアも開発した。こうして得られるFDCD曲線が有意義であることは、インド蛇木の薬効成分であるAjmalinを用いて確認した。このように、異方性の影響を完全に除去でき、感度も飛躍的に向上する測定プロセスを確立した結果、FDCDの適用範囲は大幅に拡大し、これまでしばしば混同されていたphotoselection効果とにせ信号も明確に区別できるようになった。このことは、FDCD応用研究へ向けての大きな前進と考えている。
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