研究概要 |
昨年度,アルケニルフィッシャーカルベン錯体とチオエステルが[3+2]型付加環化反応を起こし,含硫黄5員環化合物であるチオフェン誘導体が得られることを見いだした。そこで,今年度は,アルケニルフィッシャーカルベン錯体と種々の炭素-硫黄二重結合を有する化合物との反応について詳細に検討した。 炭素-硫黄二重結合を有する化合物としては,チオエステルのほか,ジチオエステル,エチレントリチオカーボネート,エチレンチオ尿素,チオ尿素をとりあげて,アルケニルフィッシャーカルベン錯体と反応させた。その結果,ジチオエステルを用いた場合にも[3+2]型付加環化反応が進行し,低収率ながらチオフェン誘導体を得るこごとができた。しかしながら,エチレントリチオカーボネート,エチレンチオ尿素,チオ尿素を用いた場合には,目的物を得ることはできなかった。以上の実験結果から,現在のところ,炭素-硫黄二重結合の電子状態の違いが大きく影響しているものと考えている。 一方,フィッシャーカルベン錯体に代わるカルベノイドとして,α-酸素置換アルキルスズ化合物に着目し,イミンとの反応を試みたところ,このスズ化合物はカルベノイドとしては作用せず,α-酸素置換アルキル基がイミンに対して求核的に付加反応を起こすことがわかった。一般に,α-酸素置換アルキルスズ化合物の求核性は低く,付加反応を起こしにくいと考えられていたことから,興味深い発見であると考えている。
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