ディスク状多座配位子としてベンズイミダゾリル基とメチル基を有する3座配位子を合成し、銀イオンとの錯形成を試みた。^1H NMR測定の結果、金属配位子比1:1および3:2においてそれぞれ2種類の異なる錯体を定量的に形成していることが明らかになった。また、各金属配位子比においてESI-TOF mass測定の結果から、金属配位子比1:1においてはAg_4L_4の組成を有する錯体のシグナルが観測され、一方、金属配位子比3:2においてはAg_3L_2錯体に由来するシグナルが観測された。更にX線構造解析の結果、金属配位子比1:1から作られるAg_4L_4錯体は銀イオンが四面体型に配置した錯体で、対イオンであるメタンスルホン酸イオンを一分子内部に取り込んだカプセル状の分子であることが明らかになった。また、対イオンをトリフルオロメタンスルホン酸とした場合も同様にAg_4L_4錯体を定量的に形成し、^<19>F NMR測定から錯体内に取り込まれた対イオンを独立に観測することにも成功した。さらに、Ag_4L_4錯体の形成は、用いる対イオンの影響を受け、PF_6アニオンなどではAg_4L_4錯体は定量的に形成され無かったことからAg_4L_4錯体は内部に取り込まれる対イオンにより強く安定化を受けていることが示唆された。一方、金属配位子比3:2から作られるAg_3L_2錯体は2枚の配位子に3つの銀イオンが挟まれ銀イオンを二次元に配置したサンドイッチ型の錯体であると考えられる。今回生成した2種類の錯体は金属配位子比に依存した動的平衡にあり、これらの変換は金属配位子比を変化するのみですみやかに起こることが明らかになった。これらの動的な変換は、対イオンであるメタンスルホン酸イオンの取り込みと放出を含み、錯体の動的な構造変換に加え、イオンの取り込み放出を利用したイオン輸送などへの応用が今後期待される。
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