配位環として2-チアゾリル基、2-ピリジル基を有するディスク状三座配位子をデザインし、銀(I)イオンとの錯形成を行った結果、Ag_3L_2型の錯体を定量的に形成することが、^1H NMRおよびESI-TOF Mass測定の結果から明らかになった。さらに、これらAg_3L_2錯体の単結晶X線構造解析を行った結果、ディスク状三座配位子が三つのAg^+イオンを挟み込んだサンドイッチ型の錯体を形成し、さらにディスク状三座配位子の全ての環が同一方向に傾くことにより、らせん性を有することが明らかになった。 また、これらAg_3L_2錯体は溶液中において速やかにラセミ化していることが明らかになった。Ag_3L_2錯体の対イオンをキラルな対イオンに交換し、温度可変NMR測定を行った結果、チアゾリル基を有するAg_3L_2錯体では253Kにおいて(P)および(M)異性体に由来するシグナルが観測されたのに対し、ピリジル基を有するAg_3L_2錯体では293Kにおいてすでに(P)および(M)異性体に由来するシグナルの分裂が観測された。これらの結果から、溶液中においてもAg_3L_2錯体はらせん性を有し、さらに(P)および(M)体間でラセミ化していることが明らかになった。このらせん性の変換は、上下のディスク状三座配位子が120°相対的に回転するフリップ運動であると考えられる。これらの結果から配位環のサイズの違いによりラセミ化のエネルギー障壁が大きく異なることが明らかとなった。Ag_3L_2サンドイッチ型錯体は120°回転する運動素子であり、さらに導入する配位環のサイズをコントロールすることにより、その速度を制御できることも見いだした。
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