研究概要 |
【有機分子を介した金属イオン間の磁気的相互作用】ピラゾールで架橋された構造をもつCu(II)錯体における金属イオン間の磁気的相互作用を明らかにするために、部分重水素化した試料を合成し、固体高分解能NMRを測定した。また密度汎関数法(U3BLYP/LanL2DZ)により理論的に電子スピン密度を求めた。これらの結果の解析から、(i)ピラゾールの各原子に誘起される電子スピン密度は全て正符号であること、(ii)軌道レベルでみた相互作用経賂はπ軌道ではなく、σ軌道経由のものが支配的な相互作用経路であること、を明らかにした。さらに(iii)これらの結果がCu(II)イオン周りの配位構造に極めて鈍感であることを示した。 【結晶状態における原子価互変異性】Mn(3,6-DBQ)2(NN){NN=2,2-bpy,phen}の結晶状態における原子価互変異性を固体高分解能NMRにより微視的に検証した。また、NN=phenの結晶について結晶溶媒を含む相を初めて単離し、結晶構造を決定した。これらの結果、(i)NMRの時間スケールよりも十分速い速度でMn(IV)【double arrow】Mn(III)の平衡が成り立っていること、(ii)Mn(III)錯体内におけるcat(-II)【double arrow】SQ(-I)の電荷交換もまた十分速い速度で起こっていること、(iii)その電荷交換は結晶の対称性の低下により抑制されることを明らかにした。さらに(iv)Mn系結晶では始めて、平衡のΔHおよびΔSを決定した。 【常磁性結晶のスピン密度分布の精密決定】有機ラジカルTEMPOLの固体高分解能NMRを測定し、常磁性結晶のスピン密度分布を決定するための手法論的研究を行った。その結果、(i)30年以上も帰属がなされていなかったNMRピークを始めて帰属することができ、(ii)全重水素化した試料の1H-NMR測定が有用であることを示すことができた。
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