研究概要 |
MDT-TTFのセレン誘導体であるMDT-TSFのAuI_2塩は、有機ドナー分子と無機アニオン分子が不整合格子を組む有機超伝導体である。X線写真の解析により化学的組成が(MDT-TSF)(AuI_2)_<0.436>であり、無機アニオンはAuとIがランダムにではなくI-Au-Iを単位として規則的に一次元鎖を構成している事を明らかにした。超伝導を破壊する上部臨界磁場はパウリ限界内に収まる。また、伝導シートに垂直な方向のコヒーレンス長がシートの厚みよりも長いことから、三次元的な超伝導特性をもつことが明らかになった[Phys.Rev. B 65,140508(R)(2002)]。不整合格子をもつ金属ではブリルアンゾーンが無限に折り畳まれるため、フェルミ面も細分化されることになる。Azbelは、このような系では量子振動の微細化が起こりうると、理論的に予測した。シュブニコフ・ドハース振動の実験では六つの閉軌道が観測されたが、それらは一本のベクトルでフェルミ面をシフトさせるだけで、再現できるものであった。シフトベクトルはAuI_2に対応するアニオン格子の基本ベクトルではなく、Au-Iに対応するベクトルである。この特徴的なフェルミ面の再構成ベクトルは、最も強い不整合アニオンポテンシャル、すなわち、X線写真において、アニオン格子による最も強いスポットのベクトルである。このことから、量子振動の微細化は現実の物質で観測されることは困難であり、フェルミ面の再構成ベクトルは、「最も強い不整合格子ポテンシャルのベクトル一本が選ばれる」という「選択則」があることを明らかにした[Phys.Rev. B 67,020508(R)(2003)]。
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