研究概要 |
本年度はまず,極低温下での走査トンネル顕微鏡の安定動作のための改良を行った.現有の装置は探針粗動機構の動作が非常に不安定であったため,駆動用ピエゾ素子の電気配線の絶縁性の向上および素子本体の交換を行った結果,極低温下においても安定な粗動が可能になった.また,トンネル分光測定を行うために十分なノイズレベルを実現するため,装置の内部配線の変更,接地環境の見直しおよび電流増幅器の交換を行った.さらに測定へ影響を与える大きな振動源であった装置排気系を測定系から切り離した.これらの結果,ノイズレベルをトンネル電流換算で60pAまで抑えることに成功した.また電解研磨による探針の作製条件に関して,FE-SEMによる探針先端の観察により評価したところ,作製に用いる塩基性溶媒が作製後の探針先端に強固に付着しており,研磨後の洗浄過程が必要であることがわかった.これらの測定系の改良に加え,試料処理法の検討も行った.本研究のターゲット物質である層状遷移金属硫化物M_xTiS_2(M=Ni, Fe)は表面においてファンデルワールス力的結合による吸着が生じるため,測定の妨げとなる吸着化学種を超高真空中でのアニール処理により容易に取り除くことが可能である反面,合成条件などから考慮した場合,十分な熱的安定性があるか否かはあまり自明ではない.試料の熱安定性を真空加熱下における質量スペクトルで評価したところ少なくともバルクにはアニール処理に十分な熱安定性があることが判明したが,表面における熱安定性に関してはLEEDなどを用いて,さらなる検討を行う必要があることがわかった.
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