研究概要 |
前年度に引き続き,極低温下での走査トンネル顕微鏡の安定動作のための評価を行った.トンネル顕微鏡観察に適した安定した表面が得られるSi(111)表面の7×7再構成構造を用いて,極低温下での原子分解像が得られることを確認した.3Kにおける熱ドリフトの大きさを原子像に含まれる欠陥部分を用いて評価したところ,2Å/minと非常に安定した観察が可能な値であることがわかった.また,本研究に必要なトンネル分光測定を精度良く行うためにバイアス変調法を用いたトンネル分光システムを新たに構築しNbSe_2の電荷密度波ギャップを用いて評価を行った.3Kでの測定のみ行い温度変化によるギャップの大きさの変化や消失は確認していないが報告されている文献値に近い値が得られた.しかしながら直接,トンネル電流の1-Vカーブからギャップを見積もった場合と比較してピーク形状がかなり異なるなどの現象がみられ,これについては今後原因を追究して行く必要がある.これらの測定系の改良に加え,本研究のターゲット物質である層状遷移金属硫化物M_xTiS_2(M=Ni,Fe)の表面の巨視的な表面粗さを大気中でもちいる簡易型STMを用いて評価した.碧開により得られたNiTiS_2の表面はNbSe_2などと比較して表面粗さが大きくステップの大きさは平均して数10層分に達し,テラスの大きさも非常に狭いことがわかた.これは層間へのNiの挿入にともないTiS_2層間の相互作用が増し3次元性が高まっていることに対応している.TiS_2層との間に一部共有結合が形成されるFe化合物においては碧開により清浄表面を得ることが難しく装置真空槽内で破断処理が必要であることがわかった.
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