過渡吸収スペクトル測定装置について改良を加え、ノイズレベルは±1x10^<-4>吸光度を光合成タンパクを損傷しない程度の積算で達成した。この改良は、サファイア窓材を用いた白色光発生の安定化、および、低速光チョッパーを用いたデータ取得系の精密化によって達成されたと考えられる。 初年度、光合成関連では、クロロフィルa以外の色素を用いて植物型光合成を行うAcaryochloris marinaの光化学系1で植物の光化学系に見られない特異な電子移動が起きていることを世界で初めて見出した。写真化学関連では、電子注入速度と電子励起エネルギー移動の速度を和周波生成蛍光検出法で明確に区別することに世界で初めて成功した。 第二年度には、高等植物の電子移動系を高い割合で含む光化学系1標品について、過渡吸収測定を再実施し、かつ対照実験として、有機溶媒中のクロロフィルの過渡吸収スペクトルについても測定し、精密な比較を行った。これにより、クロロフィル分子単独で示す振動緩和による過渡吸収変化と、光合成系で見られるような分子間電子状態遷移過程による過渡吸収変化の間を区別する基準が確立されたと考えられる。さらに、当初予定した研究対象ではないが、前任地(北陸先端科学技術大学院大学)から継続している共同研究を推進した。通常よりも低温で成長させたガリウム砒素量子井戸構造における励起電子・ホールの緩和過程を従来に無い精密、広範は過渡吸収測定で解析し、制御された成長過程により、緩和時間が制御できることを確認できた。
|