研究概要 |
生命体はタンパク質、核酸、糖質などのキラル分子を主体として構成されており、キラル認識(不斉認識)は生命活動を支える最も重要な現象である。分子インプリント法は、生体のキラル分子をターゲットとした人工ホストの簡便かつ安定な作成方法の一つとして最も幅広く研究されている分野である。本研究では、分子キラリティーを識別できる新しいバイオインターフェースの開発の一環として、金属酸化物ゲルインプリント薄膜によるキラル識別を試みた。 まず、平成14年度では、光学異性体として種々のアミノ酸誘導体を用い、in situ水晶発振子法によるナノグラムオーダーの分子認識過程の高感度でモニターリングとキラル識別の有用性について検討を行った。ゲストとしてcarbobenzyloxy (Cbz)-LまたはD-アミノ酸誘導体(Cbz-Ala, Cbz-Leu, Cbz-Phe)を用い、それぞれのインプリント膜に対してL-またはD-異性体の結合実験を行った。また、各インプリント膜における異性体の選択性をエナンチオ分離係数(α ; M-template/M-enantiomer, mol/mol)として求めた。Cbz-Alaインプリント膜では、光学異性体間の振動数変化の差が5Hz以下であり、エナンチオ分離係数は約1.1であった。一方、Cbz-LeuまたはCbz-Pheインプリント膜の場合は、光学異性体間の振動数変化の差が約16-22Hzであり、エナンチオ分離係数は1.7-2.0となった。本研究におけるこのようなD-, L-光学異性体の吸着量の差は、α炭素の回りにある3つの認識部位(-COOH、-Cbz、側鎖)を全て識別することによって達成される。即ち、保護アミノ酸のキラル認識は、チタンとカルボキシル基の錯体形成部位、Cbz保護基中の極性結合部位、側鎖及びCbz保護基中の非極性結合部位の形状に基づくと考えられる。これらの結果からキラリティーを有するアミノ酸誘導体の分子インプリントにチタニアゲルが非常に有用であることが確認された。Cross-linking polymerと比較して、酸化物ゲルのネットワーク構造はより精密なインプリントに適している。これはO-Ti-O結合のフレキシビリティーと短い結合距離、配位構造の多様性に理由する。更に、超薄膜化による速い応答が達成された。実用的な分離材料の作成手段として本手法は、様々な分野に大きなアドバンテージと新しい可能性を与えるであろう。
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