研究概要 |
我々はこれまで伝導性と磁性の両方を併せ持つ磁性伝導体の開発に注目し、安定有機ラジカルを結合させた各種π拡張型ドナーを合成し、その構造と物性について報告してきた。今回、PROXYLラジカルを有するTTPドナーの1:1の組成を有するFeCl_4^-塩とGaCl_4^-塩の構造と伝導性、磁性について検討したので報告する。FeCl_4^-塩と GaCl_4^-塩は同形であるので、FeCl_4^-塩の構造について述べる。結晶格子中に結晶学的に独立な二種類のドナーA,Bと二種類のアニオンが存在している。ドナーA,B共に立体障害の大きなラジカル部位を避け合うようにhead-to-tail型にダイマーを形成している。ダイマー同士は、分子長軸方向にほぼTTF一つ分シフトしながら一次元のスタックを形成している。そして、アニオンは、ドナーが長軸方向にずれて空いた位置にPROXYLラジカルと末端の1,3-ジチオール環に挟まれるようにして存在している。それぞれの一次元スタックはb軸に沿って配列し、ドナーA,B がそれぞれ別々のドナー層を形成している。ダイマー内には短いS-S接触が数多く見られるが、ダイマー間には短い接触はなく、また、アニオンがドナー層内に入り込んだような構造になっているため、分子の横方向の相互作用は弱くなっている。FeCl_4^-塩は1:1塩である事に加え、二量化の強い一次元スタック構造を有している事を考えると予想以上の良導体で、単結晶試料の室温での電気伝導度は1x10^<-3>Scm^<-1>であり、活性化エネルギーが0.13eVの半導体であった。一方、FeCl_4^-塩の静磁化率を測定すると室温から50K程度までχT値はほぼ一定であるが、更に温度を下げるとχT値は減少し、60K以下のデータを用いたCurie-Weiss Fittingによると、C=4.83emuKmol^<-1>、θ=-0.65Kの弱い反強磁性的な温度依存性を示した。Curie定数の値はHigh-spinの鉄とPROXYLラジカルの和(4.75emuKmol^<-1>)に近い値を示した。
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