研究概要 |
前年度までに、18個のフッ素原子を導入したキラルなサレンルテニウム(II)錯体と過酸化水素-尿素付加体(UHP)を用いるシリルエノールエーテルおよびスチレンの触媒的不斉酸化反応を達成した。しかしながら、不斉収率は20%ee以下と不十分であり、改善を要している。そこで、所期の計画通り、高い不斉誘起が期待される軸不斉ビナフチルユニットを基本骨格とする多フッ素化サレン錯体の合成を検討した。既知の方法で合成した(±)-5,5',6,6',7,7',8,8'-オクタフルオロ-2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビナフチルの一方の水酸基をメチルエーテル、他方をトリフラートとして0価のパラジウム触媒によるクロスカップリング反応を利用してC2位に置換基の導入を試みたところ、目的の化合物は全く生成せずにホモカップリング体が定量的に得られること分かった。興味あることに、反応は完全にDL選択的であり、メソ体は全く生成しない。このホモカップリング体は、フッ素の強い電子吸引性のためにトリフラートの酸化的付加によって生じた二価のパラジウム種が系中で容易に還元され、得られた0価パラジウム種に対して再び酸化的付加が進行し、次いで還元的脱離を経て生成したものと考えられる。これは、フッ素置換されていないトリフラート基質が同様な条件下で全くホモカップリング体を与えないことからも示唆された。現在までに、2,2'-ビナフトールから別法によりキラルなホモカップリング体1,1':2,2'':1'',1'''-クアテルナフチル2,2'''-ジオール(QNOL)の合成に成功し、単結晶X線解析によりその特異なプロペラ構造を明らかにすることができた。所期の目的は達成されていないが、不斉配位子としての機能が期待される新規化合物QNOLおよびその多フッ素化誘導体を見出すことができた。
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