日本独自の遺伝子資源であるアサガオには、有色の花弁に白く着色が抜けた模様を持つ優性変異が複数存在し、既知の遺伝子発現の調節機構では説明が困難な表現型を示す。このうちエピジェネティックな遺伝子発現抑制(gene silencing)が関わると思われる「覆輪(Margined)」、「吹雪(Blizzard)」、「車絞り(Rayed)」を取り上げ、これらの模様形成に関わる遺伝子発現機構の解明を目的とする。 覆輪と吹雪はともに、色素生合成系のDFR-B(dihydroflavonol 4-reductase)遺伝子が異なる形で重複し、さらに後者はDFR-B遺伝子領域にアサガオの主要変異原であるTpn1ファミリーの新規トランスポゾン、Tpn5が挿入した変異であることを明らかにした。いずれの変異体もDFR-B遺伝子のmRNA蓄積量は着色が見られない非着色細胞中では著しく低下していた。一方、予備的な実験結果より、吹雪変異体のpre-mRNAの蓄積量は野生型と同程度であったことから、吹雪変異体では転写後抑制型の発現抑制機構が働いていることが示唆された。吹雪変異体のDFR-B遺伝子領域、42kbの詳細な構造解析を行ったところ、変異体では1つの完全なコピーと不完全な2つのDFR-B遺伝子が存在することを見いだした。不完全な2コピーは逆反復配列を形成しており、この逆反復配列から転写される2本鎖RNA(dsRNA)が転写後抑制型の発現抑制機構を誘発することが示唆された。さらにサザン解析の結果、全く模様が異なる車絞り変異体も、吹雪変異体と同じ構造のDFR遺伝子領域を持つことが示唆された。一方、覆輪変異体からも約40kbのDFR-B遺伝子領域をクローン化して構造を解析中である。
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