ミトコンドリアDNA (mtDNA)の遺伝様式・機構解明を目指し、今年度はmtDNAの遺伝様式におけるボトルネック効果(生殖細胞形成過程の一時期にmtDNA分子数が極端に低下する現象)について、詳細な検討を行った。まず、汎用実験動物用マウスであるC57BL/6JのmtDNA分子の定量・測定系の構築を行った。確実に直径20μm以下の単一細胞を回収することは困難なために、これらの細胞は異種のmtDNAをもつ胚盤胞期胚へマイクロインジェクション法によって導入することで単離に成功した。さらにmtDNAの多型を利用し、目的の細胞のmtDNA分子のみを特異的に増幅可能なprimerを設計した。MtDNA分子数の測定のためにはリアルタイムモニタリングPCR法を採用し、設計したプライマーを用いて検出限界を測定したところ、10^1-10^7の範囲で定量が可能な測定であることが判明した(相関係数0.98以上)。また、非特異的な増幅は確認されなかったため、この測定系が有効であることを確認した。材料の調整として、初期胚についてはホルモン投与による過排卵処理、内部細胞塊については免疫手術、始原生殖細胞(PGC)については磁気ビーズによる回収、卵核胞期卵(GV期卵)については卵巣からのトリプシン分散法、を行った。現在までの結果では、雌性生殖系列の単一細胞におけるmtDNA分子数の定量を行うと、PGCの段階で最小となることが観察されている。本研究の結果から、細胞あたりのmtDNA分子数減少によるボトルネック効果はPGC移動期に起こることが確認され、もう一つの候補であった胚盤胞期については否定的な結果となった。また、これまでに考察されてきたsegregation unitの値(200)と同じであることから、ボトルネック効果はこうしたmtDNAコピー数の減少によって規定されていると考えられる。
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