研究概要 |
保全生物学で必ず壁として立ちはだかる、生態系保全か経済利益(あるいは健康被害予防)か、という対立を捉えていくための評価方法の一つとして「生態リスク・ベネフィット解析」の推定方法を確立させることが本研究課題の最終目的である。具体的な例としてDDTによる生態系被害とマラリア予防を考えている。 1,平成14年度はまずはDDTの生態リスク解析に焦点を当てて研究を行った。セグロカモメを例にDDTの絶滅リスク解析手法を確立したが(Nakamaru et al.,2002)、他種でもこの手法を適応できなければならない。そこで、DDT被害を受けていたハイタカに着目して、同様の手法を念頭に置き絶滅リスク評価を行ったところ、上手く成果が得られこの手法が普遍的であることが示された。この結果はNakamaru et al.,(2003) Chemosphereに掲載予定である。また、11月ソルトレイクシティーで開催された第23回Society of Environmental Toxicology and Chemistry USAではポスター発表を行った。 2,生態リスク・ベネフィット解析のためにはDDTの代替品を考え、代替品に変えた時の生態リスクの増加と経済コストの増加を見積もる必要がある。そこで平成14年度は代替品に関する文献調査を行った。WWFやWHOはピレスロイド(合成除虫菊)入りの蚊帳を推奨しており、まずはこれに着目すこととした。ピレスロイドは水系生物以外では被害がないと言われており、生態系保全の観点からは問題がない。経済的費用についても様々なデータがとられていることが判明した。また、5月ウイーンで開催された第12回Society of Environmental Toxicology and Chemistry Europeで口頭発表を行い、様々な研究者から有益なコメントを頂戴した。 3,平成15年度はDDTの代替品として蚊帳に着目し、経済便益分析を行う。また、ある地域での経済便益分析と生態リスク解析を行う必要があるが、その地域として南アフリカのKawaZulu-Natalはふさわしいかどうか検討を行いたい。また、生態リスク解析に関してのデータが全て揃っているわけではなく、種間外挿法の妥当性やブートストラップ法の可能性も考えていきたい。
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