研究概要 |
保全生物学で必ず壁として立ちはだかる「生態系保全か経済利益(あるいは健康被害予防)か」という対立を捉えていくための評価方法の一つとして「生態リスク・ベネフィット解析」の推定方法を確立させることが本研究課題の最終目的である。具体的な例としてDDTによる生態系被害とマラリア予防を考えている。 1,この研究費の交付期間中(H14-H16)にDDTの生態リスク解析の論文2本が雑誌に掲載された。H16年度ではこの成果を生態リスク・ベネフィット解析へ応用したが、生態リスク評価では有効であった「リスク当量」を生態リスク・ベネフィット解析にそのまま使用不可能である事が判明し、「絶滅確率」を用いることにした。1集団に2種以上鳥類がいる場合や、2集団を考えるときなどに、各種や各集団の絶滅確率を単に足すのがよいのか、それとも他の方法が良いかどうか整理する必要がある、という問題点も浮上した。 2,生態リスク・ベネフィット解析のためにはDDTの代替品を考え、代替品に変えた時の生態リスクの増加と経済コストの増加を計算している。まずは代替品に関する文献調査を行ってきた。WWFやWHOはピレスロイド(合成除虫菊)入りの蚊帳を推奨しているため、これに関する経済費用に関するデータを収集した。また、ピレスロイドは水系生物以外では被害がないと言われているため、プレスロイド入り蚊帳をDDTの代替品の一つとした。一方で蚊帳は人の活動範囲を狭めるなどの欠点もあるため、代替案としてハマダラカの発生を防ぐための河川工事にかかる費用も考えた。 3,今まで収集したデータを元に経済便益分析を行い、生態リスク・ベネフィット解析を行っている。データ不足や(1で説明したように)絶滅リスクの取り扱いに関する問題点も浮上し、国際雑誌への投稿はまだである。16年度で交付期間は終了するが、研究を続ける予定である。
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