まず、泥炭湿地林における多種共存機構として、物質循環の空間的異質性に起因する、地表面変化の動態の重要性に注目して研究を進めた。光条件など他の要因と比較しながら、地表面変化の種構成決定への寄与を調べるために、実生の生残過程を追跡したところ、地表面の上昇、下降が、更新する樹種を決める上で重要な要因となっていることが明らかになった。また、植物の根の水平、垂直分布を、サンプリングした根を同定して調べたところ、通気組織の発達程度や菌根の有無に応じて、分布範囲が異なっているという興味深い結果が得られた。さらに、地表面の上昇、下降が、物質循環の空間的異質性に起因することを証明するために、地下部と地上部における物質生産、分解を測定し、仮説が支持できることが確かめられた。 次に、泥炭湿地では水文条件等によって異なる植生が帯状に分布するが、その要因を探求した。その結果、泥炭の蓄積過程に応じて、植物の根圏に含まれ、植物体と泥炭層の間を循環しているミネラル量が減少することが重要な要因であると結論づけた。 さらに、生態基盤に注目した社会調査も行い、上記のような環境条件に対応して異なるタイプの村が分布し、互いに補完しあっていることを明らかにした。異なるタイプの村を結びつける交易、結婚、移住のネットワークは、泥炭湿地の環境に適応した新技術を産み出したり、土地の集約的利用が可能な場所にのみ人口を集中させて湿地全体の過剰開発を避けたりする上で、重要な役割を担っていることがわかった。また、森林資源や水産資源の採集に従事する人ばかりでなく、経済的、政治的に影響力を行使できる有力商人も彼らと同じコミュニティーの構成員となっていることによって、外部からの森林破壊の圧力に抗することができるということを指摘した。
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