泥炭湿地林において、植物の成長、枯死、微生物による分解の過程がつくりだす、微環境の分布と動態のありかたが、共存可能な種数を規定していることを証明することを目指し、インドネシアのスマトラ島東岸の泥炭湿地林でのフィールド調査と、理論的研究を行った。 その過程で、湿地林の樹木の多種共存機構として、エレベーション・ダイナミクスという新しい概念を提出した。従来から重要視されていたギャップダイナミクスのモデルによると、植物の成長、枯死に伴って周囲の光環境が変化し、そのことが植物の新規定着の条件を時間的にも空間的にも変化させる。そのためさまざまな生理特性を持った幼植物の定着が可能になる。したがって、倒木の頻度や倒木によるインパクトの大きさは、共存可能種数を決める重要な要因となる。 これに対しエレベーション・ダイナミクスでは、植物の成長、枯死に伴って、地表での有機物の堆積・分解、地中での空隙の発達・衰退、等が起こり周囲の地表面の高さが変化する。それによって湿地では、幼植物にとって光環境と同様に重要な水分環境が、時間的にも空間的にも変化する。このため湿地林では、倒木の頻度だけでなく、樹冠から地表に供給されるリター量とその分散、地下部での根の成長嶺とその分散、リター及び根の分解速度とその分散が、共存可能種数を決める重要な要因となる。 以上の理論的背景をもとに、調査地において樹木の成長、枯死、リター量、根の成長量、分解速度、泥炭の物理的性質と化学的性質を、多地点で得た。これらは以前から行ってきた長期観測の成果として今年度に得られたものである。また、さまざまな樹種の実生および幼木について、異なる微地形ごとに成長量、枯死率を得た。以上のデータを総合し、エレベーション・ダイナミクスの重要性を検証した。 なお、上記の研究(多くは投稿中)のほか、従来から取り組んできた生物間相互作用と多種共存に関する研究や、低湿地同様に泥炭の発達する山地林で行ってきた関連した研究についても成果をまとめ、発表した。
|