従来の群集動態に関する理論では、各種間の相互作用が固定された進化的に静的な状態を取り扱ってきた。本研究はこうした枠組みを取り除き、種間相互作用自体が変化しうる柔軟な理論的枠組みの提供を目指すものである。具体的な方法として、連続量で与えられる資源ニッチ上の無限個の種間関係を積分方程式で記述し、時間発展を解析することで従来の群集動態の理論を発展させることを目指している。平成14年度は、研究の足がかりとして、ホスト・パラサイト系および被食者・捕食者系の2種系(2栄養段階)の動態を積分差分方程式で記述し、形質(寄生効率、寄生防除率、捕食効率など)の遺伝様式(形質は無性的・有性的に遺伝)による群集動態の変化を解析した。本年度得られた結果は以下の通り。 1)ホスト・パラサイト系および被食者・捕食者系といった両者の立場が広い意味で非対称な場合、寄生・捕食効率の継続的増加が起こる。しかし、2)寄生・捕食効率が増加している遷移的な段階では、寄生・捕食効率を定数として固定した場合と比較して個体群動態が大きく安定する。3)形質の遺伝様式の違いにより、動態の結末に大きな違いが生じる。4)注目する資源ニッチ(形質)によっては集団内多型が安定に維持される。 以上の結果を、国内外の学会・シンポジウムで発表し、内外の研究者と議論を重ねることでモデル解析における幾つかの問題点が明らかになった。来年度は、以上の2栄養段階のモデルに新規の栄養段階を追加し、資源・1次消費者・2次消費者のモデル解析を行う。また有性的に遺伝する形質の数理的取り扱いについての幾つかの問題点を解決することを試みる。
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