シーズンが長い低緯度ほど植物の質は季節的に変動しやすい。そのため、複数種の寄主を利用できる植食性昆虫の場合には、低緯度ほど質的に高い寄主を特定しにくくなり、寄主選好性が進化しにくくなると考えられる。すなわち、このような植食性昆虫の場合には、高緯度ほど高いパフォーマンスが実現できる寄主植物への選好性が強くなることが予測できる。本研究では、この予測を化性-変動仮説(Voltinism-Variability Hypothesis)と名づけ、実際に複数種のヤナギ類を寄主とする植食性昆虫ヤナギルリハムシを用いて、この仮説の検証を行った。 北海道礼文島から広島県までの計18箇所の各調査地に自生していたヤナギの種構成を把握し、各種ヤナギ上に見られたヤナギルリハムシの個体数を記録した。これらのデータから、各種ヤナギへのヤナギルリハムシの集中度を評価し、その結果を緯度に基づいて地域間で比較した。その結果、ヤナギルリハムシは東北以南では複数種のヤナギで見られたのに対して、東北以北、主に北海道ではオノエヤナギのみに見られ、統計的に、中国地方を除けば、高緯度ほど特定のヤナギへの集中度が高くなる傾向が見られた。この結果は特定の種類のヤナギへの寄主選好性が高緯度ほど強くなることに起因すると考えられ、化性-変動仮説の予測に従うものであった。また、化性-変動仮説では、世代数が低緯度ほど増加する植食性昆虫の方がこの予測に従いやすいと考えられるが、実際にヤナギルリハムシの世代数は低緯度ほど増加していた。他に決定的な要因が考えにくいことからも、化性-変動仮説がこの緯度にそった寄主選好性の強さの違いを説明できる最も有力な仮説と思われる。
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