現在、日本の都市部において、在来タンポポが減少し、それに代わるように外来タンポポが勢力を拡大してきている。「タンポポ競争」と呼ばれるこの現象の原因を探るため送粉生態学的見地から独自の仮説をうち立てた。その仮説とは、「送粉者を介した在来・外来タンポポ間の種間競争」仮説である。本研究ではこの仮説を検証するために大きく3つの実験を行った。 1:野外において人工的に在来タンポポの純群落とセイヨウタンポポの純群落を作出し、1頭花あたり1時間あたり訪花頻度を比較した。その結果、セイヨウタンポポは在来タンポポの約2倍の訪花昆虫を集めた。 2:野外において人工的に在来タンポポとセイヨウタンポポの混群落を作出し、訪花昆虫の株間移動訪花パターンを観察した。その結果、主な訪花昆虫はセイヨウタンポポからセイヨウタンポポへの移動パターンが有意に多く、在来タンポポから在来タンポポの移動パターンを含むその他の訪花パターンは明らかに少なかった。 3:自然群落、および、野外に人工的に作出した在来タンポポ純群落と在来タンポポ・セイヨウタンポポ混群落において在来タンポポの結実率を比較した。その結果、混群落における結実率は純群落のそれよりも有意に低かった。 以上の結果より以下の結論が導かれる。 主な訪花昆虫にとって、在来タンポポより外来タンポポのほうが魅力的である。在来タンポポと外来タンポポが混生すると外来タンポポばかりを連続訪花したり、在来タンポポと外来タンポポの種間を頻繁に行き来する。このような訪花昆虫の行動が送粉頻度の減少、送粉効率の減少をもたらす。その結果、混生地において在来タンポポの結実率、つまり繁殖が抑えられる。以上の結果は冒頭に掲げた仮説を大きく支持することとなった。この結果は従来から広く考えられていた「タンポポ競争」の原因について大幅な見直しを迫ることになるだろう。
|