研究概要 |
変温動物では外界の温度が低いほど代謝速度は低下するが,実際には多くの生物で,高緯度の冷たい環境に生息する個体は低偉度の暖かい環境の個体と同等の代謝/生理的反応速度を有するという'緯度間補償'の存在が報告されている.しかし,緯度間補償の進化に関するこれまでの先行研究では,対象生物の系統関係を無視した比較がなされたり,各集団内の遺伝的変異を調べず進化上の制約を無視した議論がなされてきた.本研究は,メダカOryzias latipesの北日本系統群をモデルシステムとして,水温に対する成長速度の反応基準を集団間(緯度間)および集団内で比較した.青森,新潟,および福井の3集団から成魚を採集し,それぞれ実験室で受精卵を採取した.孵化した稚魚を21,23,26,28,30,および32℃の6段階の水温で飼育し各個体の成長を追跡した結果,どの集団も28℃で成長速度は最大となったが,高緯度の集団ほどどの水温のもとでも成長が速く,水温に対する成長速度の反応基準が垂直上方にシフトしていることがわかった.この反応基準の変異パターンは,高緯度の集団ほどその短い成長期間を補債すべく適応進化がおこったことを表し,低水温に対する適応は緯度間補償の進化に貢献していないことを示す.ただし,各集団内の家族間(=isofemale line間)でも反応基準は垂直方向にのみ変異する傾向にあり,これが適応進化の方向に対する遺伝的制約になっている可能性も示唆された.
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