研究概要 |
本研究は,個体ベースモデリングに代表される計算生物学の手法とゲノム情報解析との統合により,表現型の適応と進化を探究する上での新たな枠組を確立することを目指すものである.本年度においては,以下の二課題を中心に,多遺伝子系の進化動態を記述する数理モデルと計算解析の手法の開発に着手し,フェノム-ゲノム連関を統合的に探究する基礎を築いた. 1.多遺伝子系の適応進化過程における突然変異の表現型効果. フェノムの遺伝的な成り立ちをゲノムレベルで考察する第一歩として,生物の進化的な変化をもたらす遺伝変異が表現型に及ぼす効果について理論的に考察した.複数の遺伝子によって構成される表現型の適応進化を記述する個体ベースモデルの解析から,従来の理論予測に反する興味深い結果が得られているが,これまでのところ,その成果を研究論文として取りまとめるまでには至っていない.次年度以降の課題である. 2.エピスタシス選択と集団内連鎖不平衡. 生物集団に維持されるゲノム変異と表現型機能とを繋ぐ指標として集団内連鎖不平衡に着目し,多遺伝子系におけるその進化動態の解析を進めた.連鎖不平衡は,遺伝浮動,分集団構造等の他,原理的には,遺伝子間のエピスタティックな相互作用に働く自然選択の効果により,機能的に連関するゲノム領域間に生じる.しかしながら,具体的に,どのような相互作用が存在すると,どのように連鎖不平衡がもたらされるかを定量的に検討した研究例は非常に限られている.本年度においては,特に生存力ポリジーン間の協働的synergisticなエピスタシスが集団内連鎖不平衡をもたらす進化機構に着目し,集団内変異情報に基づく遺伝子ネットワーク解析の有効性を検討した. 以上の研究を通して開発された計算解析手法を基盤に,次年度以降,全ゲノムに及ぶ多型情報から効率的に生物機能連関を探査・同定するための情報処理技術を確立したいと考えている.
|