シアノバクテリアSynechocystis sp.PCC6803は、光強度の変化に応答し、系I遺伝子群のプロモーター活性を大きく変動させる。ところが、光強度変化シグナル受容から系I遺伝子発現調節に至るシグナル伝達経路は、全く明らかになっておらず、本研究課題ではその解明を目指している。今年度は前年度に引き続き、系I遺伝子プロモーターの光応答領域の同定を行なった。系I反応中心サブユニットをコードするpsaABおよび小サブユニット遺伝子の代表としてpsaDのプロモーター領域の解析を行った。転写開始点を決定し、また推定プロモーター部位を段階的に欠失させてluxABに連結し、光応答に必要な領域の同定を行ったところ、psaABには独立に光応答性を持つ2つのプロモーター(P1、P2)が存在することが明らかになった。上流プロモーターであるP1については、弱光下におけるプロモーターの活性化に必要なATリッチな領域を同定し、強光下ではこの活性化が解除されることを見いだした。一方、下流プロモーターP2の光応答領域は、P1の上流域に、P2自体からはかなり隔たって存在していることが分かった。この領域は強光下でのP2活性の抑制に関わっており、P1とP2の光応答性は、異なるメカニズムにより実現されていることが分かった。一方、psaDには、psaABと同様2つのプロモーター(P1、P2)が存在していたが、P1の活性は弱く、光応答性は認められなかった。P2はpsaAのP1と同様、弱光下で正の制御を受けることにより、光応答性が付与されていた。このことから、psaDでは、主にP2プロモーターが、系I遺伝子群の協調的な転写制御に関与していると推測される。psaAのP1とpsaDのP2の塩基配列を比較したが、両者に共通性は特に見いだされなかった。
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