研究概要 |
花弁の開閉運動は,花弁の内側と外側の偏差成長に起因するとされるが,そのメカニズムの細胞レベルでの理解は進んでいない.暗期によって開花が誘導されるアサガオ(Pharbitis nil st. Violet)の開花をアクチンの重合阻害剤であるサイトカラシンB(CB)が阻害したことから,開花過程における花弁表皮細胞のアクチンフィラメント(AF)をFITC-ファロイジン標識し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した.花弁から単離した中肋(アサガオでは「曜」とも呼ばれる,維管束が集中する部位)が暗処理により背軸側に反り返ることから,観察はこの部位を中心に行った.開花前の中肋背軸側の表皮細胞では,細胞の外側の表層において細い繊維からなる網目構造が存在するのみであったが,花弁の展開に伴い,細胞の表層を縦横に走る太い束が形成された。中肋向軸側の細胞においては,花弁の表面に円錐状に突出した部位を中心にパッチ状の強いシグナルが観察され,開花に伴いその面積は小さくなった.連続光下で開花の進行が停止したつぼみにおいては上記の変化は認められず,また,CB処理したものでは断片化したAFのみが観察された.これらの結果から,「開花過程において,花弁中肋の向軸側と背軸側ではそれぞれに異なるAFの配向変化が起こり,この変化が花弁中肋の反り返り,ひいては開花に重要な役割を果たしている」ことが考えられる.現在,AFの編成に関わる情報伝達系の阻害剤等の開花に対する効果を調べるとともに,花弁からのアクチン遺伝子のクローニング,アクチン結合タンパク質の検出を行っている. 一方,オシロイバナ,クロッカス,チューリップ,ハナスベリヒユ,メマツヨイグサの単離したつぼみの開花条件を確立し,20μM CB処理を行った結果,全ての植物種において開花が阻害された.従って,アクチンの開花への関与はかなりの普遍性を持つものと推測できる.
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