研究概要 |
FUS3の標的遺伝子を網羅的に同定するために、グルココルチコイドによる人為的発現誘導系を用いてFUS3を植物体で異所的に誘導することよって発現が変動する遺伝子をマイクロアレーにより探索した。その結果、FUS3により発現が誘導される遺伝子を約500種類見出した。その中には、種子貯蔵タンパク質をはじめ、貯蔵タンパク質の輸送、蓄積、貯蔵脂質の合成、貯蔵に関与する遺伝子、乾燥耐性に関与するLEA遺伝子、さらに種子特異的な転写因子などが含まれていた。ノーザン解析により、約20種類について解析したところ、そのほとんどが、ABA依存的にFUS3によって発現誘導されることが観察された。これまでに、fus3変異体の実生はABA感受性であることから、FUS3はABA非依存的な種子胚成熟過程を制御すると予想されていた。しかし現実にはFUS3はABI3と共通の標的遺伝子に対してABA依存的に転写活性化を誘導し、発芽時のABA感受性に関与するABI4,ABI5などの遺伝子の発現制御には関与しないことが見出された。さらにFUS3のC-末端側の既知のタンパク質とは類似性のない領域がABA依存的な転写活性化に必須のドメインであることを見出した。この結果より、FUS3はABI3とは異なるメカニズムでABA依存的な転写活性化を媒介すると考えられた。そこでABI3とFUS3の両方を植物体で同時に発現させ、貯蔵タンパク質のmRNAの誘導について解析したところ、ABI3の作用が打ち消され、FUS3の作用が観察された。したがって、種子胚成熟過程でFUS3とABI3は、その存在量に依存して共通の標的シス配列RY/Sph boxに競合的に作用するという新しい作業仮説が考えられた。 FUS3,ABI3と相互作用する因子の同定ならびにFUS3,ABI3がクロマチン再構成反応に関わるか否かの検討については、現在、実験系の確立を急いでいる。
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