研究概要 |
高等植物の種子は発芽後の窒素源として貯蔵タンパク質を細胞内の液胞に蓄積している.この貯蔵タンパク質の集積に重要な働きをすると考えられるのが1)選別輸送レセプター(VSR)と2)液胞プロセシング酵素(VPE)である.今年度はシロイヌナズナのVSRであると考えられてきた7つのAtELPホモログ遺伝子破壊株の単離と解析を行った.AtELPに外来T-DNAが挿入したタグラインの同定に成功した.RT-PCRおよび特異抗体を用いた解析から,本タグラインにはAtELP遺伝子の転写産物も発現産物も存在しないことが確認され,遺伝子破壊株であることが判明した.この破壊株の乾燥種子において,貯蔵タンパク質の12Sグロブリンと2Sアルブミンの前駆体が蓄積していることが明かとなった.逆に,成熟型12Sグロブリンの蓄積量は減少していた.電子顕微鏡観察の結果,これら2種類の貯蔵タンパク質が細胞外に蓄積していることが観察された.逆に,細胞内の液胞は小さくなっていた.また,インビトロの結合実験の結果,AtELPは12Sグロブリン由来のペプチドに結合能を示すことが判明した.以上の結果より,AtELPが貯蔵タンパク質の液胞への輸送に関与していることが明かとなり,特にその選別に関わる輸送レセプターであることが強く示唆された.AtELP遺伝子破壊株でも貯蔵タンパク質の液胞への輸送は完全には止まっていなかった.このことから,AtELP非依存的な輸送ルートの存在が示唆された.これが別のVSRホモログに依存するものなのか,あるいはVSRに依存しない経路なのかは今後の課題である.
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