研究概要 |
水をも分解可能な光化学系IIの反応中心"P680"の高電位形成を解明するためには、光化学系IIの分子構築を明らかにすることが重要な情報の一つになる。我々は高等植物のホウレンソウより単離した光化学系IIコア複合体の二次元結晶を作製し、その表面を電子顕微鏡で直接観察することにより、光化学系IIのサブユニット等の幾何的配置(各サブユニットの位置や膜からのタンパク質の突出の程度)の情報を得た。また、反応中心に光エネルギーを伝えるアンテナ色素複合体であるCP43,CP47複合体の簡便な調製法を報告した(H14年度植物学会・京都)。この方法で得られたCP43,CP47複合体は従来の報告より、nativeに近く、低温蛍光スペクトルもレッドシフトしていた。この複合体の分子構築を知ることは、エネルギーの集光性色素複合体からP680への流れを知ることにつながる。また、形質転換緑藻クラミドモナスの反応中心近傍のD1タンパク質の190番目のヒスチジンをアルギニンに変異させた株より、反応中心を単離しその性質を調べた。色素組成はコントロールと差異はなかったが、初期電子受容体であるフェオフィチンへの還元力の蓄積は変異株では明らかに減少していた。また、77Kでの単離した反応中心の蛍光を測定した結果、発光極大の位置は明らかにブルーシフトしていた。"P680"はD1,D2タンパク質の198番目のヒスチジンが配位子であることが知られているが、190番目のヒスチジンは、その近傍であり3.8Åで構造解析された報告から近傍に第一次電子供与体のチロシンとMnクラスターを構成する4つのMn原子のうちの1つのMnが存在するが、単離された反応中心はMnクラスターを結合しておらず、チロシンのESRスペクトルを示さないことから、変異によって得られた活性の低下は反応中心"P680"に起因するものと考えられる。変異株より単離された反応中心の吸収および蛍光スペクトル成分分解のシミュレーション解析から、680nmに極大をもつ成分が明らかにブルーシフトしていた。この結果から、この変異は"P680"の環境に大きな変化を与えていると示唆された。
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